
慣性式モーションキャプチャ「Xsens(エックスセンス)」が、2026.4バージョンからHTC社「VIVE Ultimate Tracker」による位置補正に対応しました。本記事では、慣性式の弱点とされる位置ドリフト(移動量の誤差)がどこまで改善されるのかを、①原点位置精度、②複数名での相対位置精度、③オブジェクトトラッキングの3つの観点から実機検証しました。
結論から言うと、リアルタイム運用や複数名収録にも実用できるレベルまで位置精度が向上することを確認できました。
慣性式モーションキャプチャ機器「Xsens」とは
Xsensとは、当社が日本総代理店として販売している慣性式モーションキャプチャ機器です。慣性式の弱点である磁場の影響をソフトウェアでキャンセルする機能を搭載しているほか、収録後にはHD Reprocessと呼ばれる再処理機能により、フットスライド(足が滑って見える現象)やセンサーエラーを自動で補正できます。

高精度な慣性式モーションキャプチャ機器として、ゲーム・映像制作からスポーツ分析、研究用途まで幅広く活用されています。幅広い用途で活用されています。
Xsensについての関連記事は下記をご覧ください。
VIVE Ultimate Trackerとは
VIVE Ultimate Trackerは、HTC社が販売するインサイドアウトトラッキング方式の自律型トラッカーです。
通常のカメラやベースステーション(部屋に設置する外部センサー)を使わずに、位置(前後・左右・上下)と回転(3軸)を合わせた高精度な6DoF(6自由度)トラッキングによる空間認識に対応しており機材の設置が最小限で済むのが大きなメリットです。

VIVE Ultimate Tracker 単体

充電ステーションと通信用USBドングル
Xsensソフトウェアでの位置補正
慣性式モーションキャプチャ機器全般に言えることですが、慣性式では、「キャリブレーションした場所からセンサーがどれくらい動いたか」「足がいつ接地したか」などの情報をもとに移動値を取得しているため、空間位置精度は光学式に及ばず、時間の経過とともに実際の位置と計測上の位置がずれていく「位置ドリフト」が発生します。
Xsensでは、収録後にHD Reprocessによるポスト処理を行うことで、移動誤差を約8割程度軽減できます。ただし、どうしても位置ドリフトが発生してしまうため、次のような用途は苦手とされてきました。
- リアルタイムでのライブストリーミング
- 絶対値が必要な計測
- 複数名での同時収録
※絶対位置が必要な収録の場合は、光学式が最も適しています。
当社販売製品の「XEROmotion」もぜひご検討ください。
一方で、Xsensにはこの弱点を補う機能として、HTC社のVIVE Trackerを利用した位置補正機能が搭載されています。
これまでは、BaseStationを使用したVIVE Trackerのみ対応していましたが、今回の2026.4バージョンよりBaseStation不要のVIVE Ultimate Trackerに対応したため、検証を実施しました。
検証内容
今回は、次の3つの観点で検証を行いました。
検証① VIVE Ultimate Trackerの有無による「原点位置精度」の比較
検証② 複数名での「相対位置精度」の検証
検証③ バーチャルプロダクションを想定した「オブジェクトトラッキング」の検証
検証開始
1.VIVE Ultimate Trackerのキャリブレーション(空間マッピング)
まず、PCにVIVE Hub(専用ソフトウェア)をインストールし、HTC社のマニュアルに従ってVIVE Ultimate Trackerの設定を行います。
VIVE Ultimate Trackerは、搭載された2台のカメラで空間を認識し、自身の位置を把握します。空間マッピング(周囲の空間をトラッカーに記憶させる作業)は、次の手順で行います。
①低い位置でトラッカーを上下左右に傾けながら4方向の空間マッピングを行います。
②さらに高い位置でも同様の動作を行うことで、空間マッピングが完了します。
HTC社の公式ホームページでは、トラッキングエリアについての具体的な記載はありませんが、ランドマークとなる物がある方が位置精度は上がるとされています。
2.Xsensソフトウェアのキャリブレーション
次に、Xsensスーツを装着したアクターの身体にVIVE Ultimate Trackerを取り付けます。

装着位置は、Xsensのソフトウェア上で設定できます。腕・足・腰などを選択できますが、今回はトラッカーが最もずれにくい「腰」に設置しています。
VIVE Ultimate Trackerを装着しても、Xsensのキャリブレーション動作に通常の手順と違いはありません。Nポーズ(気を付けの姿勢)で3秒間静止し、約10秒間歩き回った後、再びNポーズで3秒間静止することで、キャリブレーションが完了します。
3.検証①VIVE Ultimate Trackerの有無による「原点位置精度」の比較
2名のアクターのうち、1名のみVIVE Ultimate Trackerを腰に装着し、お互い原点に足を合わせた状態から、5分間動き、原点からの位置ずれを検証しました。
4.検証②複数名での「相対位置精度」の検証
2名のアクターがともにVIVE Ultimate Trackerを腰に装着し、お互いにハンドタッチした状態からスタート。5分間自由に動き、再びハンドタッチを行い、2名の相対位置(ハンドタッチ位置)のずれがどれだけ生じたかを検証しました。
5.検証③バーチャルプロダクションを想定した「オブジェクトトラッキング」

2名のアクターがともにVIVE Ultimate Trackerを腰に装着し、さらに、バーチャルカメラを想定したオブジェクトトラッキング用としてVIVE Ultimate Trackerを固定し、複数台での位置関係を検証しました。
検証結果
位置精度を高い順に並べると、次のようになりました。
- VIVE位置補正を使用したHD Reprocess(ポスト処理)
- HD Reprocessをしていない生データ(リアルタイム)
- VIVE位置補正を使用していないHD Reprocess(ポスト処理)
- VIVE位置補正を使用していない生データ(リアルタイム)
つまり、VIVE Ultimate Trackerによる位置補正は、HD Reprocessによる補正よりも位置精度への効果が大きいという結果になりました。
Xsensでは、ソフトウェア上でアクターの身体サイズを各セグメントの寸法で入力できます。実際のアクターと人体モデルの誤差を少なくすることで、移動値の誤差を減らす工夫もできますが、慣性式の仕様上、移動量の誤差を0にすることはできません。
VIVE Ultimate Trackerを使用することで、Xsensの唯一の弱点ともいえる移動量の誤差を大幅に補正できるようになり、今までのベースステーションを使用するVIVE Trackerよりもコンパクトに、リアルタイム運用や複数名での相対位置合わせにも、問題なく使用できるレベルであると考えます。
